こんにちは、グレートエスケープ中の元勤務医です。
現在管理人はドバイにてバイクの到着を待ちながらぶらぶらと散歩したり寝たり日向ぼっこしたりして過ごしているのですが、
今回旅の準備の中でも、かなり苦労をしたといえるバイクの輸送に関して記事にしておこうと思います。
これは、今後自分の車両を国外へ持ち出そうという方の、わずかな参考にでもなればというものです。
はじめに
はじめに、管理人は貿易の知識もなければ車両輸送の精通者でもなんでもないただの歯医者です(でした)。
なので、今回の記事は今までのドキュメント類発行に関するような詳細さはありません。
「こういう手順を踏めば自分のバイクを輸送できるよ」という手順を できれば詳細に記事にできたらいいのですが、残念ながら現状そのようなまっとうなマニュアルは存在しませんし、実際、輸送代行業者や仕向け先の国、現地代理店の解釈など 多くの要素で必要な準備も変わってきます。
今回、管理人が自分の車両をアラブ首長国連邦に輸送する事を通して感じた事などを書こうと思います。
フェリーでロシアへ渡るというのが、当時は普通だった
1・フェリーでウラジオストクへ
旅を決意し、準備を始めた際は まだ鳥取県の境港からDBSフェリーが就航していました。
これは日本から車両も持ち出す上で最も簡便かつダイレクトな方法で、当時以前日本から飛び出すライダーの第1選択といってよいでしょう。
しかし2020年の1月、当時ロシアと日本を繋ぐ唯一のフェリー航路であったこのDBSフェリーが業務停止を宣言したのです。
➡【DBSクルーズフェリーが業務停止だと!?】
しかし、当時は
「まぁまだ出発まで2年以上あるし、そのうち再開するっしょ」
という至極甘い考えで過ごしていました。
その後、DBSフェリーの船、イースタンドリーム号は韓国の頭沅商船が買い取り、京都の舞鶴港⇔韓国の浦項港⇔ウラジオストクを結ぶ形で航路が復活しました。
➡【イースタンドリーム号の復活を喜ぼう】
これは朗報だとぬか喜びをし、貨物のみの航路がいずれ乗客を乗せるに違いない というポジティブシンキングで過ごしていたわけです。
月に1度は京都の舞鶴港 担当部署に電話をし、フェリーとしての復活はいつ頃になりそうか確認をしていたのですが、担当者の方も「そればっかりは全然よめない」とのことでした。
2・違う方法を考えなければ
まだこの頃は、「きっと頭沅商船がフェリー就航復活をしてくれるはずだ」と根拠のない考えに甘えていましたが、
それもほどなくして打ち砕かれます。
➡【悲報:頭沅商船のウラジオストク航路 わずか5か月で廃止へ】
これが2021年の年始からしばらくした頃、
さすがに 「いよいよ他の方法を考えていかないと、まじでフェリーは復活しないかもしれない」という焦りが出てきます。
3・海上輸送を現実的に視野へ
頭沅商船によるイースタンドリーム号は、実はその後 韓国での寄港を東海港に変えて復活していたのですが、あくまで 貨物のみ であり、もはや残された時間的にもここに希望をかけるのはリスキーだと判断しはじめました。
これが、2021年の6月頃、出発まで1年という意識が方向転換を現実的なものにしていきました。
海上輸送仕向け先の遷移
バイクを船で送り、自分は飛行機で現地へ行き、現地の港でバイクを受け取る。
これを現実的に検討しはじめた2021年の6月頃、
バイクでの世界ツーリングを計画していますが、フェリーでの渡航が難しい中 車両の輸送を手伝ってもらえる業者を探しています。
勿論もっと丁寧に詳細に、文章をしたためたわけですが、意味合いとしては上のような文脈で、およそ8~10社ほど、国際輸送を扱っている業者を調べ、メールを送りました。
コロナの影響は海上輸送に多大な影響を及ぼしていた
自分が実際に何かを海上輸送する という立場に立ってみなければわからなかったことかもしれませんが、2021年時点で 国際海上輸送はかなり混沌を極めていました。コロナにより滞っていたラインが、ちょうど各国の規制緩和や国境の再開に伴って動き出していたからだと思います。
あらゆる港でコンテナは飽和状態、コンテナの取り合い状態。
個人の中古車両を旅行目的で送るとなった場合、非常に優先順位は低くなるため、費用・時間 どれをとっても厳しい状況だったのです。
当初はウラジオストクへの輸送しか考えていなかった
そんな中、2社のみ 協力が可能との返事がありました。
当初は、当然出発地であるウラジオストクへの海上輸送を検討していたわけです。航路も短いですし、出発地の変更の必要もありません。
まだ出発まで1年ほどの時間があったため、具体的なブッキングはできなかったのですが、担当者とたまに連絡をとり、ウラジオストクへの輸送が可能な状態かを確認しながら過ごしていました。
ウクライナ紛争の勃発
そんなこんなで「ウラジオストクへの輸送は確保した」と安心しきっていた最中、2022年2月、ロシアがウクライナ東部で武力行使を開始しはじめたのです。
そもそも、ウクライナ紛争というのはもっと昔からあったことだし、またコロナ同様メディアが大げさな扇動報道をしていると思っていました。
正直今でもそう思っていますが、世の中の動きというのには逆らえません。
連絡をとっていた輸送業者から
「ウラジオストクへの輸送は不可能だと思います」
との連絡がきたました。
ウラジオストクへ輸送するとなった場合、どうしてもロシアへ送金することになるわけですが、これはアメリカにより監視されていて、露呈した場合は業務続行不可能になる危険性もあるとのこと、仕方ありません。
北米航路
既にロシアビザやウラジオストクでの宿、航空券まで予約していた管理人ですが、全てキャンセルし、新たな仕向け先を考えなければなりませんでした。
ウラジオストク出発の次に、よく目にするルートとしてはアメリカ大陸縦断やオーストラリアツーリングです。
オーストラリアは島なので、走り終えた後の再輸送の問題などから除外し、では北米や南米出発もありかとバンクーバー港などへのブッキングを模索してみることになりました。
これに関しても、詳しい事は分かりませんが、現在日本→北米仕向けのコンテナは最も確保が難しいのだと思います。
順番待ちとしては、中国→北米へのコンテナに空きがでないかぎりはブッキング不可能 とのことで、
「輸送は可能だが、いつになるかは全く見通しがたたない」
という状況だったのです。
バイクの輸送期間や到着時期を目安に色々なことを決めなければならない以上、「いつになるかわからない」ではどうしようもない・・・
それに今アメリカは更なるインフレと金融引き締めで経済が安定しないうえに政治的な国民の分断もあり、渡航するにはあまり気の乗らない状況でもありました。いずれドル覇権の崩壊と米軍撤退がもう少し進捗し、アメリカバブルが弾け飛んだ後くらいに行くほうがむしろいいかもしれない と考えています。
インド洋シーレーンのハブ港 ドバイ
コロナ余波の混雑に加え、ウクライナ紛争に伴うロシア領空の空路→航路変更が更なる追い打ちをかけ、国際海上輸送は更なる混沌を極めてきました。
そんな状況の中でも
・個人の中古車両を旅行目的で
・ある程度予定を見通して
輸送できる仕向け先として提案されたのが、中東のハブ港 ドバイだったのです。
ドバイへの輸送で具体的に動き始める
まさか中東が仕向け先になるとは、全く考えていませんでした。
しかし、もうこうなったら背に腹は代えられない。幸いサウジがビザを出している間はユーラシアと陸続きのアラビア半島であれば、どこにでも舵をきれる。
多くの人は
もっと状況が落ち着いてからの方が
などと言うかもしれませんが、一体状況が好転する根拠がどこにあるんでしょう?
今回のウクライナ紛争が、グローバリズム勢とネオコンなどによって長引かされるのであれば この戦争は終わりが見えないどころかさらに広範囲に飛び火していく可能性もあるでしょう。
日本は依然低金利のまま、アメリカとの金利差で円はどんどん弱くなるうえに、かつてないほどに刷り散らかされたことでスタグフレーションはもっと進行するでしょう。
今出ないと、もっと出づらくなるかもしれない
そういう焦りもありました。
いずれにせよ、ドバイへテネレを輸送する。
これに向けて具体的に動くことになりました。
具体的な準備
以上が、管理人がドバイへバイクを輸送することになった経緯です。
ここからは、その後 管理人が行った作業を少しだけ具体的に記載していきます。
車両登録の解釈
バイクを輸出する際、おそらく最も「普通」なのは国内登録を抹消し、輸出先で再登録する という方法です。
車両に関する規定などは国によって様々なので考えてみれば当たり前です。
しかし、今回は国境を越えながら移動するため、どこか1国で再登録するというのは選択肢にありません。
なので、国内の登録を維持したまま、車両を輸送することになります。
そもそも、カルネを使って輸送する=登録証書を担保にしている=国内車検・登録を担保にしている
わけなので当たり前なのですが、一般的にはイレギュラーな形での輸送だということに留意しなければなりません。
車両の計測
バイクの輸送は、混載輸送 という方法で行われます。
バイクをクレートという木箱に梱包し、それを他の荷物が入ったコンテナの隙間に入れさせてもらうのです。
なので、バイクをどれくらいのクレートに梱包するか、まずは概計測し見積の参考値とします。
カルネの準備
仕向け先であるアラブ首長国連邦は、カルネ加盟国です。【自動車カルネの発行の実際】で触れた通り、陸路の国境越えと航路での輸入は全く性格が異なるため、書類上の整合性がまずプライオリティを握ると考えたほうがいいでしょう。
カルネを発行したら、原本は現地の代理店へ輸送しました。
パッキングリストとインボイスの作成
バイクを梱包するクレートには、ほかにも荷物を同梱する事が可能です。
ただし、飛行機の預け荷物や手荷物などで国外へ持ち出すこととはわけが違うようで、クレート内に入れる品目に関しては、漏れなく全てリストに記載し申告する必要があります。そして、これはカルネのアイテムズリストやパーツリストと完全に一致させる必要があります。
※現在個人の輸送品目は税関にて厳しい目にさらされる傾向があります。
→品目が多いだけでも通関作業に時間を要したり、場合によっては追加の検査(X線や開梱など)になってしまう事もあるので、通関費用や時間をなるべくかけないようにリスクヘッジするのであれば同梱する荷物は極力少なくした方がよいです。
→また、リストは職員が目で見るわけなので fire とか fuel とか、そういう危険物を連想するような単語は極力使わないようにリストを作成するのがよいです。
ただし、これも「どんな税関職員にあたるか」というところがあるようで、適当な人ならスンナリ行くし、めんどくさいヤツにあたってしまうと思わぬ言いがかりを付けられたり という運次第な部分が大きいようです。
バイクは本来危険物
バイクは本来危険物とされるものですが、国際海上輸送での危険物輸送を規定するIMDG(International Maritime Dangerous Goods)という記載の中に、SP961という条項があります。
【IMDG SP961】
SP とは Special Provision つまり特別規定ということで、要するに「このような条件を満たせばバイクを非危険物としてOKです」という条件記載というわけです。
混載に関しては、SOLAS条約のⅡ-2 :防火に対する構造 に基づいて、どのような船舶のどのような位置に固縛されるべきかが規定されていますが、これは自分でどうこうすることではありません。
あくまで車両に関して輸送車=管理人が留意しなければならないのは
・ガソリンの残量
・バッテリーの端子
・エンジンオイル
・引き渡し時のキーの位置
・洗浄
などです。
●ガソリン
→自走で輸出港に行くため、完全に空にするのは不可能です。管理人は自宅から輸出港まで必要最低限のガソリンに減らした状態で搬入し、なおかつ梱包業者への引き渡し直前に、ポンプを使ってタンクからガソリンを抜きました。
●バッテリー端子
→バッテリーのターミナル末端は、一度バッテリーから外し、ターミナルエンドを絶縁体で覆う必要があります。
これも梱包業者への引き渡し時に梱包工場内で行いました。
●エンジンオイル
→これが微妙なところで、結局なにが正解なのかは分かりませんが、エンジンオイルを抜いてしまうと走行が不可能になってしまうので抜かずに輸送することができました。
ただし、これには填入しているオイルのメーカーSDS(Safety Data Sheet):安全データシートの提出が必要です。
管理人は YAMALUBE の Premium Synthetic だったので、これのSDSを提出しています。多くの場合、メーカーHPの当該商品のページにSDSのPDFが提供されています。
また、今回管理人の輸送した20年式テネレはウェットサンプですが、ドライサンプ車でオイルタンクが別体式に備わっている場合などは、また確認が必要かと思われます。
●キーの位置
→キーの位置はセルがOFFになっていればOKです。管理人は梱包業者さんが取り回しをしやすいよう、ハンドルロックはしませんでした。
●洗浄
→泥や砂など、明らかに分かる汚れは洗浄する必要があります。なので、梱包業者への引渡し前、できる範囲内で車体を綺麗にしておきました。
タイヤの洗浄は、梱包業者さんが行ってくれたようです。
これらを踏まえて、
Letter of Indemnity for the Carrigage of Vehicle に署名をし提出します。
これらは輸送するため、というより あくまで輸送をしてくれる船舶乗組員の命を守るため に必要なこととして、しっかり行う必要があります。
実際の輸送へ
本当は、他にもおそらく膨大な準備があると思うのですが、多くは代行業者さんにやっていただきました。
おそらく100通近くやりとりをし、
パッキングリストのブラッシュアップ
現地代理店との進捗状況
ブッキングする船舶の選定
カルネ発行のタイミング
梱包への引渡し時期選定
などなど、ちょっとちゃんと脈絡立てて記事にするのは難しい経緯があります。
いずれにせよ、なんとかテネレを輸送することができたので、その後の経緯を記載します。
梱包への引渡し
今回は横浜の大黒ふ頭から出港することになりました。
はじめて入りましたが、これが梱包場です。
ここで、タンクから残りのガソリンを抜き、バッテリーからターミナルを外したり、車体の洗浄を行います。
そして梱包途中のテネレ。
今思えば、フロントホイールだけでも外せばもっと小さくできたなぁ・・・
例え開梱検査になったとしても問題のない道具のみ、同梱しています。
出港
完全にクレート内に梱包された後は国内の輸出申告・通関を経て外貨となり、一度保税倉庫に保管されます。
貨物が輸送人に引き渡されると、荷送り人と輸送人との間での契約として船荷証券:Bill of Landing が発行されるというのが、貿易上のルールのようですが、今回はTelex Release 方式といい、現地での引き取りをスムーズにするためオリジナル証券の発行が省かれる形となります。
この辺の詳しい仕組みは正直よくわかりません。
ここまできたら、あとは無事到着してくれるのを待つしかありません。
上の地図は、世界中の海上に散らばる船舶の分布を表したものです。
今、どれだけ海上輸送が混雑しているか、よくわかります。
その後の経路
今回テネレの航路は
横浜→→→シンガポール→→→ドバイ です。
まずは ALLEGORIA というコンテナ船でシンガポールまで運ばれ、
シンガポールにて接続船への積み替えのため、一度下ろされます。
シンガポールに着くまではスムーズでしたが、
接続船が上海やら台湾やら香港に寄って、なかなかシンガポールに来ない・・・
この時点で既に当初の予定より3週間くらい遅れていました。
そしてようやくシンガポールに。
ここでおそらくシンガポールの保税倉庫内にあるテネレの入ったコンテナが、接続船に積まれることになります。
しばらくして、マラッカ海峡を越え、
インド洋へ
そしてついにホルムズ海峡へ入って、
ドバイ、Jebel Ali港へ着きました。
今はこのようにGPSでコンテナ船を追跡できて便利ですね(たびたび Out of Range になりますが)。
港には着きましたが、これから輸入申告・通関が行われます。
引渡しはいつになるんだろうか・・・。
まとめ
冒頭でも記載した通り、今回の記事は車両輸送のイロハにはならないと思います。
なるべく思い出しながら書きましたが、細かく入りくんだやり取りの、ほんの上澄みしか記載することはできません。
この現状を鑑みるに、島国日本のライダーが海外をバイクで走りたいとなった場合、バイバック(現地でバイクを購入し、現地で売却する)がスタンダードになるような気がします。
勿論、昔のようにフェリーが再就航し もっと気軽に自分の車両を持ち出せたり、
海上輸送が落ち着き もっと安価で簡便に輸送をできたりできる状況になるのが理想ですが、
これからの世の中がさらに混乱していくであろう中で、なかなか先行きのある希望ではなさそうだと言わざるを得ません。
これから、ドバイでの一大イベント、バイクの引き取り作業が待っています。
果たしてスムーズに行くでしょうか。
その様子は、また the UAE episode のほうで更新しようと思います👍