【自転車の話】戦前のBSAをオーバーホールする

こんにちは、世界放浪2輪旅を目指す管理人です。

バイクとも世界旅とも関係ありませんが、自分がいままで心血を注いできたもののひとつとして、自転車のことも書こうと思い立ちました。
かなりコアな内容なので、この記事が役に立つ方は日本中に10人くらいしかいないと思いますが、自分用のまとめも兼ねて、記事にしておきます

日本におけるヴィンテージ自転車の土壌

エロイカ・ジャパンが開催されるようになり、なんとなくヴィンテージ自転車というカテゴリがメジャーになったような気がします。メジャーといっても、ゴルフやサッカーのようなメジャーさには遠く及びませんが、それでもちらほら雑誌を見かけるくらいにはなったかな・・・と。
とはいえ日本で人気なのは主に60~80年代のフランスやイタリアの自転車。
自転車でのツーリングといえば、フランスに起源をもつランドナー(randonneur)がメインでした。

Alex Singer のランドナー https://www.flickr.com/photos/59945060@N04/6073839503/

ルネ・エルス(René Herse)やアレックス・サンジェ(Alex Singer)といった優雅でゴージャスな雰囲気は、確かに道具としての自転車の域を超えた芸術性を感じます。Huret(ユーレー)やSimplex(サンプレックス)の変速器にStronglight(ストロングライト)やTAのチェンホイール、Mafac(マファック)のブレーキにIdeale(イデアル)のサドル、といった具合にフランス製のパーツで固めるのが定番でしょうか。

70年代のチネリ https://steel-vintage.com/cinelli-supercorsa-fine-road-bike-1978-detail

一方、60~70年代のイタリアンロードレーサーも多大な人気を獲得してきたカテゴリーといえるでしょう。Cinelli(チネリ)やMasi(マージ)、Bianchi(ビアンキ)といった老舗イタリアブランドのクロモリフレームに、Campagnolo(カンパニョーロ)のコンポーネントをフル装備して颯爽と走る。これも日本におけるヴィンテージ自転車のひとつの価値観といえます。

BSA clubman という自転車

自転車文化という意味では、上述のフランス、イタリアに加え イギリスがもうひとつ大きな勢力といえます。なぜかここにアメリカは参入しません(・・?
ただ、例えば日本でヴィンテージ自転車のパーツなどを扱っているお店に行ってみればわかりますが、イギリス製の部品などを見かける事はほぼ皆無です(Brooksのサドルを除く)。これがなぜなのかは、日本での自転車文化の成り立ちに関わることなのかもしれませんが、ママチャリのバルブは全部英式なのに、不思議なものです。
というわけで、「ヴィンテージ自転車」という狭い世界の中でも、殊に「イギリス製ヴィンテージ自転車」というと更にさらにせっま~~い世界になるわけです。

出品時の写真

そんな折、イギリスのネットオークションでBSA製の戦前の自転車が激安な金額で売られていたため、構造などを勉強するんだっ  などというわけのわからない理由で自分を正当化しつつ購入。確か2万5千円くらい・・・?

出品者からは詳細な情報が得られなかったので、色々と当時のカタログなどを調べた結果、1936年ごろの  BSA “CLUBMAN 609T” というモデルである可能性が極めて高いという結論に至りました。そう、WWⅡよりも前のモノです。
BSAは Birmingham Small Arms の略で、バイク好きな人はご存じかもしれません。

そのエンブレムが示す通り、元々は軍用の銃器をつくる会社でした。

一見綺麗だったが、、、

出品時の写真は概観だけで、一見きれいなようにみえたが、、、
よく細部をみていくと、まぁ80年近く前の自転車だもんね・・・ってかんじで、ブレーキはきかない、
可動部分は渋くてカタイ、
見るに堪えない赤錆びがそこかしこに覗いている・・・
全然使えたもんじゃない!25,000円も納得のクオリティだわ。
ってなわけで、セルフオーバーホールを決行することに。
では、部位ごとに分けてみていきましょう。

前後ブレーキ

ブレーキは前後共、SturmeyArcher(スターメーアーチャー)のハブドラムブレーキ。今の自転車のブレーキは、いろいろ種類はあれどどれもゴムのパッドがホイールのリムを挟み込んで制動力を発揮するキャリパー式。ドラム式は古い車やバイクにも採用される方式で、ホイールの中心にあるドラムが外側に広がって回転軸にあるハブを抑え込む事で制動力を発揮する構造。
見ての通りサビサビ状態・・・

とりあえず、まずはできる部分まで分解します。古いイギリスの工業製品はインチサイズのボルトなどが多用されているので、分解も一苦労。
前後共、パーツ数はそんなに多くありません。

フロントドラムブレーキ分解清掃後。

リアドラムブレーキ分解清掃後。
今回ドラムブレーキにて大きな問題だったのが、
・リターンスプリングが機能していない
・リアのライニングが完全に摩耗していた
の2点。

リターンスプリングの戻る力でライニングがハブ内面から離れるため、これじゃあ使い物にならん・・・
ということで、スプリングを製作してもらうことに。

個人のつまらない発注にも真摯に向き合ってくれる小さな工場には本当に感謝です。リンクを貼りたいけど、申し訳ない 会社名を忘れてしまった・・・

そしてリアのライニング。これは張り替えをお願いすることに。実家の近くにある目黒ライニングさんにお願い。こちらも同様、個人の注文にもしっかり対応していただいて、感謝でした。

さすが、新調したスプリングは強力で、スプリングツールを使ってやっとのことセット。万力に万力を咬ませてその万力に挟むという万力地獄・・・

リア、組み上げ後。

ピッカピカ?になりました。戦前のものづくりというのは、本質的に高いクオリティなのか、今後も何十年も修理しながら使っていけるとはこういうことかと思わされます。

フロントはピポッド式になっており、スプリングは1本。今思えば、フロントのライニングも張り替えておけばよかった・・・

ブレーキレバー

もともとこういう仕様なのか、レバーブラケットのところだけバーの黒い塗膜が剥がれていた。

レバーやブラケットやボルトなども全分解し、可及的に清掃、グリスアップしていく。今回は、全ての作業においてサビなどはある程度 までで。あくまでオリジナルの状態を保持して、再メッキなどはしない。

レバーは刻印などなく、どこのものか不明。おそらくBSA純正か?なんともいえばい絶妙なカーブ。現行にこのセンスはないなぁ。

ブレーキ系ワイヤ取り回し

アキバのプラモ屋で入手した「アルミスタビボール」なるスモールパーツ。

ブレーキ取り付け、ワイヤの設定後、ワイヤーエンドにこいつを装着してみた。
すこぶる雰囲気は良い。現行にはない極太のブレーキワイヤーのため、穴は拡大加工が必要でした。

ベアリング類

当然ながら、ベアリングは全てゴリゴリのサビサビ。極力オリジナルのパーツを綺麗にして使いまわしたいところでしたが、これは断念。

各ベアリングの必要数を数え、サイズを計測しておいて、新品を発注。
回転部分にはこいつを組み込んでいく。

ヘッドセット

油汚れというか、泥汚れというか、なんでここまで汚くなんの?ってくらい色々こびりついている。これはもう、ドライバーとかで地道に削りとっていく感じ。

ランプブラケットをあわせて7つのパーツ構成。下玉押しはフロントフォークに残しているため、写真では6つ。写真右側のボールレーサーがヘッドチューブ内に直接収まるので、今でいうインテグラルヘッドのような構造。

一番上にくるステムクランプのパーツが欠けてしまっていたため、ロウを盛って形態修正。

ん~~ 今だったらもっとうまくできるかなぁ・・・

なんとなくオリジナルのベアリングをボールレーサーに並べてみるが、、、こりゃだめだ!

新しいベアリングを、

たっぷりグリスと一緒にレースに収めていく。
ベアリングは 1/8 inch × 30 × 上下 の計60個。

ハブ

ハブはロックナットを緩めれば簡単にアクスルシャフトが取り出せるシンプルな構造。

軸系を全てクリーニング。特殊な形のボルトがある。こういう初めて分解するものは組付けの時に分からなくならないよう、メモるか、写真撮りながら作業する。

ここの内面はドラムブレーキのライニングが圧接される部分。錆を大まかに研磨。磨きすぎないのがポイント。

錆の浸食が深くなければ、金属は磨くことで新品のように蘇る素晴らしい材質ですね。

ベアリングは、
フロント 3/16 inch × 10 × 左右の計20個
リア 1/4 inch × 9 × 左右の計18個。

リアディレイラー

いわゆるヘリコイド式の Cyclo (サイクロ) スタンダード3速。
Cyclo というと、フランスのシクロを連想するひとがほとんどだと思いますが、イギリスのCyclo はそれと区別してサイクロとか呼んだりします。

このタイプの変速器にはリターンスプリングというものがないので、ワイヤーは全体でループを描いてます。なんかもうワイヤーエンドの部分がぼろそうだったので、

切断。

代わりに真鍮材からキューブを削りだし、

旋盤がないため手作業。オリジナルを参考に、同じような形に研磨していく笑
そんなにシビアな部分ではないので、だいたい合えばOK!
でも、時間かかったなぁ・・・これ・・・。

ワイヤが通る穴を開け、更にそこに直交する形でタップを切り、イモネジをスクリューさせる。これで両方から通したワイヤーを固定できる。

本体の方も、オーバーホールしていきます。

カニ目などもあり、分解はそれなりに大変。

細かいワッシャーなどが多く、順番などをよく記録しておかないと大変。
ベアリングは、
ラージプーリー 3/16 inch × 20個
スモールプーリー 5/32 inch × 11個。

この時代の歯車は、いい仕事してるなぁ~
現代の中華品とはまるでものが違う。

清掃後。

丁寧にグリスアップし、組み上げていく。なんともいえない重厚感。

ワイヤーループ状になっちゃっててどーすんねん問題はシフトレバー側も然り。

なのでやはり真鍮材からこのような形に削りだして、、、

ワイヤー2本を両側からロウ付け。

この出っ張りがシフトレバーの溝に引っかかり、ワイヤーを両サイドに引っ張ってるわけです。

きれいにはまりました。

リアも、組付け後にワイヤーを通し、製作したワイヤーエンドでがっちり固定します。変速も問題なし、オーバーホールの甲斐があってヘリコイドがスムーズに動きます。このワイヤエンド、後にフリーマーケットで数百円で手に入りました((´;ω;`)

ペダル

ペダルも、中は案の定・・・な状態。

BSA純正か?パーツ数は少なく、カンパニョーロのペダルなどに比べれば分解清掃は楽だった。
ベアリングは 1/8 inch × 14 × 内外側 × 左右の計56個。

片方のキャップには穴が空いていたので、

やはりロウで埋めておく。

フリーホイール

フリーホイールはCycloの3速。内部がどうなっていることやら・・・

当時は今ドキのカセットスプロケットと違い、フリー本体にひとつひとつギアがスクリューで固定されている。何枚目は逆ネジ・・・なんてトラップもあるので、当時のカタログを調べ、逆ネジ正ネジを調べておかないと大変。
3速の場合は全て正ネジ。
上2枚は写真のように厚歯フリーホイール用のツールを2本使って外すことができる。

最後の一枚は、ロックリングを外さないととれないが、カニ目ツールではうまく外せなかったので、、、

センターポンチでトントンやったら緩んでくれた。ロックリングは勿論逆ネジです。

一番ローギアが取れると、中からベアリングとラチェットを構成する部品が落ちてきます。
ベアリングは 1/8 inch × 6 × 内外側の12個と、曲線状の針金みたいなもので構成。

そして大変なのがフリー本体。

どんな自転車でも、こいつをハブから取るのは難儀なものです。

いろいろ試すも、爪の径が特殊なのか合う工具がない。イギリス自転車に精通する友人の力を借りるも、適性な工具がみつからず、、、

最終的に、フリー本体を万力に固定し、リムを手で回すという強行かつ最終手段に出た。本来は専用工具をつかうべし。

そして無事、外れました。

フリーホイール全分解、清掃後。このほかに、ラチェットを構成するスモールパーツもあります。

フリーホイールが外れたリアハブ。内面の掃除が難しい。

ボトムブラケット

ボトムブラケットの構成は非常にシンプル。
可及的に錆を取り除き、清掃する。
あれ、BBの左ワンは正ネジ?逆ネジ?どっちだったっけ?
書いとけよ~~自分・・・

ベアリングはお亡くなり状態なので、交換。
1/4inch × 11 × 左右の22個。

ホイール

今回ちょっと妥協したのが、ホイールをハブ・リム・スポークまで分解しなかったこと。

タイヤはけっこう傷んでいたが、このまま使うことに。チューブだし・・・

リムテープは布製!コットンかな?

一度金具を外し、洗濯した後再び縫い付けてOK。染みはこのままで。

内面の錆はけっこう深そう。

表側の錆もけっこうしんどい。

そんな時は電動ドリル+延長コード+ワイヤブラシのコンボでガンガン削り落とす。ワイヤーブラシの毛が取れて飛んでくるのでゴーグル必須。顔に刺さると痛い。

その他

マッドガード内面にはなんだかわけの分からない物が多量にこびりついていたため、全部除去して可及的にきれいに。

ステー先端は丸く面取りして

ステー固定ボルトの錆もきれいに磨いておきます。

ウィングナットの刻印もきれいに出して、

ベルの内部も可及的にきれいにして潤滑。

この時代のハンドルの曲がり具合は、、、なんともいえん。
これはらラウッタワーサー型?ノースロード?よくわからんが塗膜は厚い。

フレームの塗装はオリジナルと思われるが、あまりいい状態ではない。
錆の部分だけラストリムーバーとビーズワックスで磨いておく。

クランクはウィリアムズ製かな?これも可及的に錆を落とすくらいで。

チェンは1リンクずつ地道にサンドペーパー(;´д`)
Coventry(コベントリー)の厚歯はリンク機構でチェン切無しでも外すことができる。

完成!

これら分解清掃を終えた部品をひとつひとつ組あげていき、

完成。
細かい部分を見ると詰めが甘いところもありますが、まぁ当時はこれでけっこう満足でした。

サドルバッグはギルベルソ―かよ
という突っ込みをする人が日本に何人いるかは知りませんが、

けっこういい雰囲気じゃありませんか。
BSAのラインナップ的にはオッパーマンスペシャルなどに比して廉価モデルのクラブマン。重いし、決して高級感のあるもんではありませんが、こうしてセルフオーバーホールすると愛着が湧くもんです。野暮ったい雰囲気が逆にかわいらしくていいんすね。

そしてけっこうしっかり走る

ただ分解して組んだだけじゃ自転車乗りとしていかに、とかいうつもりは微塵もありませんが、試走で友人と一緒に群馬県の桐生まで片道130kmほどのツーリングへ。

川を越え、

トンネルを抜け、

日本家屋と撮ってみたり、

ノコギリ屋根に到着したり、

そしてまた川を越え、

また日本家屋と並べてみて、

潔い名の温泉と撮ってみたり、

ちょっと海外なんじゃね?みたいな写真撮ってみたり、

あ、もっといい感じのノコギリ屋根があったなんつって

けっこう石の壁が似合うななんつって

また川を越え、

乗りもしないのにホームに持ち込んだり

商店街で怪訝な目で見られながら帰って来るのでした。

Brooks Castaluminのサドルのおかげもあったのか、なんなのか分かりませんが、乗り心地は概して「体に優しい」感じでした。そもそもスピードがあんまり出ないというのもありますが、変速もうまく使えば3枚で色々な坂に対応できるし、これで十分なんだなぁ と。現行のリア11枚×フロント2枚へのアバンギャルドな反抗といえます。
イメージとしては ヌメぇ~~~っと、ダラぁ~~~と ゆったり走っていく感じ。これはもう、老後にとっておいて、また歳とったらゆっくり楽しもう。

ということで、7年前の作業を改めて記事にすると、当時の記憶がよみがえってきます。バイクばっかり乗るようになった今、やはり自転車旅は寄り道力が半端ないことを再確認。
大事だよなー 寄り道。

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