こんにちは、グレートエスケープ中の管理人です。
カタールのドーハにいた時は、バイクの修理待ちでいろいろと美術館や博物館に行っていたけど、その後はなかなかスルーしてしまっていました。
博物館巡りが目的ではないのでいいのですが、イラクのバグダッドにある国立博物館はどうしても行ってみたかったので訪問してきました。
イラク国立博物館
博物館は9時~13時開館で、しかも金・土は閉まっているので かなりピンポイントで行かないとならなかった。
アッカドに始まり古バビロニア、アッシリア そしてカルデアにいたる、古代メソポタミアの遺物が沢山収蔵されていて、イラク戦争の際には 動乱に乗じて、約15,000点もの貴重な考古学コレクションが国内外へ密売目的で持ち出されてしまった。その後、約6,000~7,000点が返還され それらが今展示されている。
失われたコレクションは、一体どこにいってしまったんでしょう。
ミュージアム入口に建つ古代メソポタミア知恵の神 Nabu の像。紀元前8世紀。
入口。IRAQ MUSEUM. きっと歴史好きでここに訪れたい人は沢山いるんじゃないだろうか。
古代オリエントの考古学コレクションは、かなりの量がヨーロッパに持ち出されてしまっているので、元祖の地で保管されているものに出会えるのはなかなか貴重な機会だと思う。
館内は撮影OKだったので、大量に撮った写真の中から ほんの一部を紹介したい。
いずれも紀元前900~600年頃、新アッシリアの時代の象牙細工。イラク北部のニムルド遺跡より。
子供に乳を与える牛や、絡み合った枝の中で佇む鹿、非常にリアルなライオンの頭など 生き物を象った繊細で写実的な仕事は見とれてしまう美しさ。
学生時代に技工用ワックスを溶かして動物の彫刻をしていたのを思い出した。あの時はヒマだったのかなぁ。
実在の生き物だけではなく、翼を持ったグリフィンのような架空の生き物も登場する。黒い象牙の方は、ヌビア(現スーダン辺り)の商人が肩にレイヨウの類をかついで、左手にはダチョウの首を絞めてる。新アッシリア期。
まるで牛の親子の授乳の様子と同じように、スフィンクスの授乳の様子も彫られている。この時代にはこんな生き物も実在したんじゃないかとさえ思えてしまう。同じくニムルドより新アッシリア期。
時代は変わってアッバース朝期 9世紀ごろのお皿。
指1本程度の大きさの色ガラス。日本でいう一輪挿しなのか?7~8世紀。ローマングラスやシリアガラスの、光を反射して表面が虹色に輝く雰囲気が大好きなんだけど、それに通ずる このなんともいえない複雑な色づかいが堪らないね。
古代のメソポタミアで広く信仰された女神 イシュタルの従獣 ライオン。現Hilla 近くのバビロン遺跡 イシュタル門の一部。
紀元前600~550年頃の新バビロニア期。
同じくイシュタル門の青い釉薬煉瓦に浮き出た2種の動物。
左はオーロックスで今までの記事でも何度か登場している雷神Hadad;アダド(地域や時代によってはBaal; バアル神ともよばれる) をあらわし、右の霊獣 Mushkhoshu; ムシュフシュはバビロンの都市神 Marduk; マルドゥクをあらわしている。
紀元前300~140年頃、ヘレニズムの影響下、セレウコス朝? 石灰石でできた兵士の像と、大理石できた Hatra王 Sinutruk像。
紀元前2世紀~紀元3世紀、パルティア期の香水ガラス。見る角度によってラメラメと輝く。
紀元前910~610頃 新アッシリア期、Ashur Nasir Pal Ⅱ; アッシュル・ナツィルパル2世の宮殿(ニムルド)近くから出土。
牛の体に人頭、鷲の翼をもつ幻獣が印象的。
紀元前810~780頃、Tel al-Rimah 出土 Adad Nirari Ⅲ;アダド・ニラリ3世 の石碑と、紀元前1,500~1,000年頃、中期バビロニアの石碑。
館内でも特に目玉となっている展示スペース。
両サイドの壁一面に大理石のレリーフが連なる。
その奥。巨大なスフィンクス2体に挟まれた通路と、その先の巨大な像。イラク博物館の最もシンボリックな展示風景だと思う。
このスフィンクス様の幻獣は Lamassu と呼ばれていて、守護の象徴であり、イラク北部のKhorsabadにて 出土。紀元前720~705頃、Shurogin(Sargon of Assyria); サルゴン2世の頃のもの。同じようなLamassu の像は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やパリのルーブル美術館、ロンドンの大英博物館にもある。全部返却してもらって、全てイラク博物館に集めたら、凄まじいコレクションになるのにねぇ。
高さ310cm にもなる石灰岩の像。入口にあったのと同様、知恵の神 Nabu の像。
紀元前860~820 頃 Shulmanu Acharido Ⅲ(Shalmaneser Ⅲ);シャルマネセル3世 に関する釉薬煉瓦の壁碑。中央に描かれている1対の山羊(牛にみえたけど山羊らしい)が印象的。
一瞬ハンムラビ法典かと思ったけど、ハンムラビ法典はやはりルーブル美術館にある。
同じくシャルマネセル3世期の黒い石灰岩でつくられたブラック・オベリスクの石膏コピー。オリジナルは大英博物館にある。
王の征服や業績に関して、楔形文字で記されていて、他の面には様々なシーンのレリーフが施されている。
もっと紹介したい写真が沢山あるけど、まぁキリがないのでこんなもんにしとこう。
特に古代シュメールに興味がある人は Must Visit な博物館のひとつなのかもしれない。
これだけのボリュームがあるのに、開館時間が4時間しかないってのは軽く嫌がらせだろ。前半でじっくりみすぎて、後半は急ぎ足にならざるを得なかった。
そういえば、少し前にフランスのマクロン大統領がアフリカに文化財の返却を宣言したのが話題になっていた。
イギリスは絶対返さねー的なスタンスのようだけど、もし世界中に散らばっている古代メソポタミアの秀宝たちが全てイラクに戻ってきたら、それだけでイラクの経済を後押しするくらいの戦闘力があるんじゃないだろうか。
そして、イラク戦争の際に行方不明となったコレクションが、いつかまた戻ってくることを願う。紛争による危機とか、修復・管理のインフラ練度なんかを考えると、あながち欧州に保管されているのも悪くないのかもしれないけど、やっぱり過去の遺産はそれがつくられた土地にあって、その末裔たる人々に愛され守られるって構図が成り立つなら、それが一番しっくりくるような気がする。
つづく